ロシア産フェナカイトの物語 – 『小さなひかりの居場所』
舞台:長野県松本市・浅間温泉
主人公:尚美(40歳/フリーの写真家)
テーマ石:ロシア産フェナカイト
✨【序章】
春の終わり。
山の空気がまだ冷たい浅間温泉の朝。
尚美は、宿の縁側に腰かけて、湯気の立つ湯呑みを見つめていた。
「撮らない」という選択をしたのは初めてだった。
日帰り取材ではなく、締切もない旅。
何も残さず、何も証明しなくていい時間。
それでも心の奥で、
何かが「ざわざわ」していた。
「私は、誰のために“きれい”を見てきたんだろう」
🌿【第一章:光る小石】
温泉街の端、小さな骨董店で見つけた。
透明で、先が少し尖った、手のひらに収まる結晶。
「ロシアの石です。フェナカイトというんですよ。
透明だけど、強い。何も主張しないけど、真っ直ぐです」
店主のことばに、尚美は何も返せなかった。
けれど、その石を受け取ったとき、
不思議と「沈んでいた問い」が静かになった。
🌌【第二章:撮らない日々】
カメラを鞄にしまったまま、
尚美は何も撮らずに、
ただ山の空気を吸い、光と影の移ろいを見つめた。
朝の斜光、昼のにおい、
夜の静けさ。
何も記録しない時間のなかで、
ふと浮かんできたのは、
ずっと撮り続けてきた「人の背中」だった。
笑っていたあの人。
もう会えないあの人。
何も言わず去っていったあの人。
「きれいな景色のなかに、
私は何を閉じ込めていたんだろう」
🪞【第三章:ひかりの居場所】
結晶を、朝の光のなかで透かしてみた。
ガラスのようでいて、どこか“深い音”が宿っているような透明さ。
そのとき、尚美の中で、ある映像が浮かんだ。
それは“未来の一枚の写真”だった。
でも、それは人に見せるためのものではなかった。
誰かに評価されるでもなく、
“ただそこに在る”ことを祝福するような光景。
「自分のなかにしか残らない写真があってもいい」
尚美は、ゆっくり息を吐いた。
🌠【エピローグ:再び静けさへ】
東京に戻る日。
荷物のなかにそっと入れたのは、
あのフェナカイトの結晶と、メモ帳1冊だけだった。
駅のホームで、
春の終わりの風が吹いた。
尚美は、スマホのカメラを起動して、
誰もいないホームの影を一枚だけ撮った。
「これは誰にも見せない。
私の“ひかりの居場所”として、ただ持っていよう」
そうつぶやいて、彼女は歩き出した。
【結晶評価】
💎 結晶名:光の余白結晶(Crystal of Quiet Light)
🪐 発光色:透明白(Silent Clear)+若草色(Soft Green)
🌌 特徴キーワード:観察・静かな回復・創作の純粋性・沈黙の選択
🌈【この物語が伝えていること】
「見せるため」「残すため」だけではなく、
私たちは、ときに何も記録しない時間の中でこそ、
本当に大切なものを“観て”いる。
何かをやめることは、
終わりではなく、静かな再始動。
ロシア産フェナカイトのように、
主張しない透明さが、
かえって真実の光を導くことがある。
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