あるところに、声をもたない石の郵便配達人がいました。
彼の名はありません。姿も、風のようにあいまい。
ただひとつ、“持っているもの”だけが本物でした。
それは、ゴールデンフェナカイト。
この石は手紙なのです。
封筒も、切手もないけれど、
受け取る人の魂にしか読めない手紙。
配達人は、遠く離れたロシアの大地から、
長い長い時を越えて、その石を静かに運んでいました。
ある日、ある町にて。
“未来のことを知りたがる少女”がいました。
「わたしは、どこへ向かうの?」
「本当に大切なことって、どうやったら見えるの?」
彼女の問いは、誰にも理解されず、
ノートの隅に、こっそり書き残されるばかりでした。
その夜、風のような足音が、彼女の夢に入り込んできました。
「届けにきたよ」と、
声なき配達人は、ひとつの石を手渡しました。
目が覚めたとき、
少女の枕元には、小さな光を湛えた結晶がありました。
それが何かは、少女にはわかりませんでした。
けれど、その日から、彼女は夢の中で、
自分自身から届く“未来の手紙”を、少しずつ読むようになっていきました。
光は、言葉よりも早く届くもの。
そして時に、石のかたちをしてやってくる。
それを受け取った人だけが、
「まだ読まれていない自分」を、そっと開くことができるのです。
🌑【余白】
……いま、あなたのもとにも、
もしかすると“まだ封の切られていない石の手紙”が、あるのかもしれません。
その石に、光があるなら、
どうぞ少しだけ耳をすませてみてください。
その静けさごと、答えの一部かもしれませんから。
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