ロシア産フェナカイトの物語 – 『かけらのままで』
舞台:富山県高岡市・海沿いの町
主人公:紗季(さき/33歳/カフェ店員・元美術予備校講師)
テーマ石:ロシア産フェナカイト(原石)
✨【序章】
富山湾を望む、静かなカフェ。
紗季は、ガラス越しの海を眺めながら、
ラテアートの練習をしていた。
美術大学を目指し、教える側にもなった。
でも、絵を描くことがつらくなって、
すべてから一度離れた。
今はこの海辺の町で、
コーヒーを淹れ、空を見て、
ただ日々を過ごしている。
「何者でもないことを、まだ許せていないのかもしれない」
そんな思いが、
ふとした瞬間に湧いてくる。
🌿【第一章:割れた光】
ある日、常連の外国人男性がカフェにやってきた。
言葉少なに、彼は一つの小箱を差し出した。
「Thank you for the warmth. This is for you. Raw phenakite. Russia.」
中には、ゴツゴツした形の白い石。
部分的に透明感もあるが、
表面は欠けやひびもあり、洗練された美しさとは違っていた。
「…なんで私に?」
理由を聞く前に、
その人はすぐに姿を消した。
🌌【第二章:夜の反射】
その夜、紗季は石を机に置き、
じっと見つめていた。
磨かれていない。
形も不揃い。
でも、なぜか目が離せなかった。
石をそっと握った瞬間、
視界の端に“光”が見えた気がした。
部屋のどこにも光源はないのに、
一瞬だけ、机の上がふわっと明るくなった。
そのとき、頭の奥に声なき言葉が響いた。
「このままで、光っていい」
🪞【第三章:かけらと輪郭】
翌朝。
紗季はスケッチブックを開いていた。
久しぶりに、何のためでもなく、
ただ描いてみようと思った。
ペンが紙を走る。
花でもなく、人でもなく、
描いたのは――自分のなかにある“割れたかたち”。
でも不思議と、そこに嫌悪はなかった。
むしろ、そこにこそ息づく“輪郭”があるように感じた。
フェナカイトの原石のように、
不完全だからこそ宿る光。
その静かな気配を、
自分のなかにも見つけた気がした。
🌠【エピローグ:再び静けさへ】
フェナカイトの原石は、
今もカフェの奥の棚に飾ってある。
時々、来客が興味を持つ。
「これ、なんの石ですか?」と。
紗季は答える。
「まだ“途中”の石です。
でも、それでもすごく綺麗なんです」
それは、
自分自身に向けた言葉でもあった。
「完成していなくても、
まだ光を放てるんだ」
【結晶評価】
💎 結晶名:未研磨の光結晶(Uncut Radiance)
🪐 発光色:白灰(Raw White)+やわらかな銀(Tender Silver)
🌌 特徴キーワード:未完成・許し・内なる光・素の美しさ・過去の輪郭
🌈【この物語が伝えていること】
人は、いつか“完成された自分”にならなければと焦る。
けれど、
欠けていても、ひびがあっても、
そのままで光るものがある。
ロシア産フェナカイトの原石のように、
形を整えなくても、
磨かれなくても、
ただ在ることで放たれる輝きがある。
それを受け入れたとき、
わたしたちはもう一度、
静かに描きはじめることができる。
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